遠回りしても、時間がかかっても、自分のゴールを目指して
オルガ先生:女性研究者が仕事を続けるために大切なのは、自分の仕事が夫の仕事と比べて、重要性は全く変わらない、という認識をもつことです。自分の目標を、家庭のために断念することはありません。家族が一つのチームになって、いろいろなことを分担し、「仕事を続ける環境をつくり出すこと」が大切です。
私はスペイン出身ですが、スペインでは女性だけに限らず、男女ともに育児をしながら働き続ける制度も環境もかなり整っています。出産後の職場復帰は当たり前で、私の姉は緊急救命の医師ですが、出産直後から現場に戻りました。
日本でもこの10年ほどで大きく進歩していますから、正しい情報を手に入れ、利用できる制度を知ることも大事ですね。私自身は2008年からRPD制度(優れた若手研究者が出産・育児による研究中断後、円滑に研究に復帰できるよう支援する制度)で3年間ポスドクのポジションを得、その後、2012年から助教になりました。今は夫といっしょに、保育園、ベビーシッター、学童保育などをフル活用して2人の子を育てています。子どもが病気のときは、北大の病児保育サポートがたいへん心強いです。そしてもちろん職場の理解と協力がとても重要です。
渥美先生:私たちが所属する第二内科にはいくつかの独自ルールがあります。一つは男性も産休をとること。奥さんの苦労を一緒に味わい、サポートすることで、最近は里帰り出産をする家が少なくなってきました。そして、男性も出産・育児の経験を持つことで、子育て中の同僚に理解が生まれ、助け合う気持ちが強くなったと感じます。
そのほか、外来の担当には必ず交代者を決め、いつ緊急で休んでも対応できるようにしたり、当直翌日は休日と決め、家族と過ごす時間をとるようにしたり、働きやすい環境をつくるようにしています。これは人数の多い大学病院だからできることでもありますが、家族を大事にすること、人を大事にすることは、患者さんや学生に向き合う私たちにとって、たいへん重要なことですから。
オルガ先生:若い学生や研究者の皆さんには、最初からムリと思わずに、妥協をしないでほしいと思います。遠回りしてもいいので、自分のゴールを目指してほしい。その途中のスピードは、全く問題ではありません。自分なりの速さで、確実に進んでいけばいのです。私も少し回り道をしたかもしれませんが、大学人としての充実した教育と研究というゴールに向かって、まだまだ進み続けます。また、これから日本がもっと女性研究者が働きやすい環境になっていくには、男性への教育が必要だと思います。公共の制度やサポートはかなり変わって整備されましたから、あともう少し!と期待しています。
渥美先生:妻は、研究の公用語は英語なので問題ありませんが、言葉の壁、異文化の壁など多くのハンディキャップもあるなかで、本当によくやっていると思います。私も幼稚園のお弁当を作ったりと手伝いはしますが、子どものことは彼女が圧倒的にやってくれています。また、同僚としてみても、大学院生の論文を一手に引き受けるなど、非常に有能で優秀なパートナーです。
これからも私たちだけでなく、みんなが家族を大切に、働きやすい環境をつくるように務めたいと思います。
北海道大学大学院医学研究科 内科学講座・第二内科
助教
マリア オルガ アメングアル プリエゴ先生
教授
渥美達也先生
- RPDについては日本学術振興会のサイトをご覧ください。