自分の道は常にオープンに
北海道大学病院呼吸器内科 講師
榊原 純先生からのメッセージ
進路の選択肢は広いほうがいい
若いうちは自分が進む道を常にオープンにしておいたほうがいいと思います。もちろん興味がある分野は大切ですが、最終的にどこに行くにしても、はじめから狭く限定せず、いろいろな選択肢が広がるスタイルにしておくといいよ、と若い人たちには言っています。
私が進路で一番迷ったのは、医局に入るときでした。「内科医になりたい」という希望だけはあって、消化器、循環器など細かい分野は決めきれない。それで門戸は広いほうがいいと思って、いろいろな分野のある第1内科(現在の呼吸器内科)に入局しました。いま専門にしている呼吸器腫瘍、肺がんの分野へ進もうとは全く思っていませんでしたが、周りに優秀な先輩がたくさんいて興味を持ち、さらに、やっている間に肺がん治療の幅がどんどん広がり面白いと思うようになりました。
肺がん治療の研究は現在劇的に進んでいて、1年前の治療法はもうスタンダードではなく、半年前でもかなり変化しています。自分たちが新しい治療法に関わることで、患者さんの直接的な利益につながり、私自身もそれを目の当たりにできて非常にうれしく思います。
大学院卒業後に米国Vanderbilt大学に留学しましたが、このときも最初は留学しようと思っていませんでした。いろいろな先生の話を聞いているうちに行ってみようかなと思い、結果、留学してすごく良かったです。現在ライフワークとなる研究に初めて携わることができましたし、いろいろな人に会い、いろいろな考え方を知り、「その時できることをやって元気に暮らせるのが一番」と考えるようになりました。留学前は将来に悩んだり不安を感じたりしていましたから、少し大げさにいうと人生が変わりました。
自分で「これはしなくていいや」と思っていることに、大きな出会いがあるかもしれません。いろいろな病院で研修してみるのもいいと思います。どうしても辛かったら辞めればいいし、あまり頑張りすぎないほうがいい。命を取られるわけではありませんから。それくらい気楽に考えてみてはと思います。
信念をもって患者さんに治療を届ける
近年の肺がん治療は本当に進歩が早く、キャッチアップするだけでも大変ですが、新しい有効な治療を自分の中に吸収し、患者さんに届けたいと思っています。ただし我々だけが先走って患者さんを置いていかないようにと常に考えています。
治療方針には絶対的な正解がなく、「あれもあるし、これもあります。どれを選びますか? どれでもいいです」という姿勢にだけはしたくありません。患者さんはたいてい「先生ならどうしますか?」とおっしゃいます。自分だったら、自分の家族だったらどうするか考え、これまでに出ている様々なデータを検証し、チームの先生方などと相談し、信念をもってこの選択肢がベストと思えるものをご説明します。当然治療薬には効果と副作用がありますから、何を優先させるのか、患者さんがどう過ごしたいかをお聞きしながら一緒に決めていくことが大事だと思っています。
でもそのとき患者さんは、私たち医師に思っていることの半分以上は話されていないのではとも感じます。遠慮されていたり、こんなこと言ってはダメかなと思われたり。難しいとは思いますが、それらをどうにか引き出してうまくすり合わせができたらと思います。それには看護師さんなど他の職種との連携が大切で、時間もかかり、大学病院では難しい部分も多くありますが、話し合いながらその患者さんにとって最適な治療法を選んでいきたいと思っています。ここでも医師が独りよがりにならないよう、常にオープンに話し合いができることが大切ですね。
北海道大学病院呼吸器内科 講師
榊原 純先生