応援メッセージ

女性でも男性でも、子どもがいてもいなくても、
やりたいことができる社会を目指して

北海道大学病院血液浄化部 教授
西尾 妙織先生からのメッセージ

西尾 妙織先生

出産のタイミングは…?

インタビューを受ける加藤先生ときどき後輩の医師から、出産のタイミングはいつが良いか相談されることがありますが、思い通りになるわけではありませんし、「産みたいときに産めば」と答えています。私自身を振り返ると、子どもは欲しいと思っていましたが、大学院が終わったら、留学が終わったら、と考えているうちにグループのリーダーになり、「今はまだちょっと無理」と思っていると気づけば38歳になっていました。
このままでは子どもが持てないかもしれないと思い、周囲に「不妊治療します」と宣言して、なるべく迷惑のかからないよう朝一番や診療のない日に通院し、どうしようもない場合は他の人に代わってもらい、無事に子どもを授かりました。

妊娠や出産、子育て、介護などで仕事を休んだり、勤務時間が短くなったり、様々な局面があると思います。でもそれ以外のときに一生懸命働いていれば、周囲はきっと理解すると思います。そうやってがんばっているお母さん医師がたくさんいますし、その時にできる人がサポートし、順番に次の世代をサポートする流れが私たちのグループでは実現できています。「女性だからたいへん」「男性ばかり仕事が偏る」と感じている人はいないと信じています。

もちろん、地域やそれぞれの病院の状況によって違いはあり、医療界全体がそうではないと思います。それでも大学病院など大きな病院は医師の数が多いので、誰かが休んでもカバーできる点が大きなメリットです。また、子どもが小さい時期は、ある程度医師が多い病院の勤務を希望したり、産休中は応援医師を派遣してもらったり、解決の手立ては何かしらあると思います。

自分の思う道へ進もう

デスクに座る加藤先生最近、若いうちに大きな病院で働くことをやめ、パート勤務を選ぶ医師が多いように感じます。人生において何を大切にするかで働き方が変わりますから、そういう選択肢もあると思います。誰もが同じようにキャリアアップを目指すことが正解とはいえません。そもそも「キャリアアップ」という言葉をよく目にしますが、「医師のキャリアアップって何だろう」と疑問に思うこともしばしばです。

私はこの仕事が好きで、目の前の仕事を断らずに一生懸命やってきたらここまできた、というイメージでしょうか。子どもが4ヵ月のころから、学会に哺乳瓶やベビーカーを持ってリュックを背負って連れて行きました。海外出張の際は親に助けてもらい、周囲の協力なくしては子育てが成り立たないことを実感しています。
そういう時期もありながら、ずっと大学病院で仕事を続けているのは、遺伝性の難病である多発性嚢胞腎に出合い、この疾患を治したくて研究を続けてきたからです。患者さんに寄り添って多くの症例を診療し、治験や動物実験なども行い、とにかく治療薬を開発したい。それができるのが大学病院です。その研究のために留学もしました。腎臓学会でもこの疾患を担当し、治療のガイドラインを作ったり、患者さんやご家族向けの本を作ったり、いろいろな活動を続けています。いまは全国から多発性嚢胞腎の患者さんが私たちのところに来てくださるようになりました。

女性でも男性でも、子どもがいてもいなくても、一生懸命に努力を続けて第一線で働きたいと思う人が、自分の力ではどうしようもない問題でキャリアを絶たれるような環境にだけはしたくない、と強く思っています。いまも、これからも、医療の道を進む皆さんにはどうか医療の仕事を辞めず、自分の思う道を進んでいただきたいと思います。少しだけ先を歩いてきた私たちは、できるかぎり応援します。

北海道大学病院血液浄化部 教授

西尾妙織先生