応援メッセージ

自分がどんなふうに働きたいか、人生の目標は何か、
ぜひ周囲に伝えてください

北海道大学病院脳神経内科
教授 矢部一郎先生、軽度認知障害センター 講師 岩田育子先生、助教 白井慎一先生からのメッセージ

脳神経内科を選んだ理由は?

インタビューを受ける白井先生白井:私は学生の頃からコンピュータが好きで、例えばコンピュータの画面が映らない場合、液晶画面に問題があるのか、またはケーブルか電源か、原因を探し出すのが結構好きでした。脳神経内科の診療もそれと少し似ていて、患者さんの病歴などをよく聞いた上で現状を見極め、その症状が何に由来するものか探し出すところが面白いと思ったのが理由の一つです。また、学部の基礎配属で腫瘍病理学の研究室に配属となり、脳に興味を持ったことも一因です。最終的に自分は患者さんと話す仕事につきたかったので脳神経内科に進みました。

岩田:私も理由は一つではありませんが、脳神経内科は診察プロセスに「手を使って診断する技術」が残されている分野で、機械や検査結果だけで決まらないところに面白さを感じました。また個人的に体力にあまり自信がなかったので、何かあっても継続できるような診療科の方が合っていると考えたことも理由の一つです。

ライフイベント事情は人それぞれ

白井:うちは9歳と6歳の子どもがいて、妻も常勤で働いているため何かあった場合はその時に対応できる方がするという形で何とか過ごしています。子どもが小さいうちは物理的なケアに時間が取られ、「今が過ぎたら楽になる」と思っていましたが、全然違いました。体感的には小学生になった今のほうが大変です。
問題を起こしたと学校から電話があれば、帰ってきて本人の考えを聞き、対応を考えなければいけません。子どもと向き合うことがより重要で、これからも新たな課題が続くのだろうと思います。そんな毎日ですが自分が大人になって気づいたのは、世の中には思っていた以上にみんなバラバラな事情があって、その中で見つけた幸せがあり、自分だけが大変なわけじゃない、ということでしょうか。

インタビューを受ける岩田先生岩田:私は4歳半の子どもがいますが、やっぱり事情は人それぞれだと感じます。私自身は助教になったあと結婚したので出産が遅く、親たちも高齢でサポートに限りがある状況で子育てをスタートしました。育休明けから仕事はフルタイムで、当直免除などの配慮をいただきとても助かりました。ただ、勤務時間内は子どもを保育施設に預けられますが、学会や研究会など、医師にとって欠かせない自己研鑽の時間に子どもをどうするかは現在進行形の悩みです。出張は以前と比べ減らしていますが、どうしても必要な場合は子どもごと出張し、現地で託児を頼みます。それも幼児のうちは可能ですが、小学生になったらどうするかは今も検討中です。でも一つずつ考えて対処するしかないと思いますし、それを考えるために自分の頭があると思っているので、知恵と工夫で乗り切りたいと思っています。

矢部:私は2人と世代が違い、働けば働くほど美徳であるという時代に研修を始めました。朝は誰よりも早く来て、夜は誰よりも遅く帰る。どんな患者さんが来ても断らない。それが正しいと思っていました。しかし世の中が少しずつ変わり、多様性を重んじる考え方があることに気づき、セミナーや講習会などで軽くカルチャーショックを受けながらも、新しい価値観や働き方を学んで今に至ります。
教授になってからは「日本神経内科学会キャリア形成促進委員会」の委員長に任命され、医療従事者の働き方について、さらに深く考えるようになりました。医療従事者には当然いろいろな人がいて、様々な事情があり、その一人ひとりが「キャリアを順調に形成できるシステムをつくること」が重要だと認識しています。
昔の自分のような働き方をしているとバーンアウトになる場合がありますが、なぜそれが起こるかというと、本人の問題ではなく、属している組織が成熟していないことが原因と考えられます。その人の働きを周囲が適切に評価し、仕事を分担し合う仲間がいれば、バーンアウトは防ぐことができるはずです。

若い世代の皆さんへ伝えたいこと

インタビューを受ける矢部先生矢部:組織の上に立つ者の役目は、そこで働く人たちが人生の目標として考えることを、できるだけ実現可能な環境を提供することに尽きると思います。医師にも大学病院に残って研究者のキャリアを積みたい人、クリニックを開業したい人、一般の病院で勤務医になりたい人など、いろいろな考え方がありますよね。全員100%の実現は無理としても、互いに少しずつ妥協し合いながら、柔軟に対応できる環境を提供するつもりです。
近年は学会でも同窓会でも若い世代から意見が出ないと感じますが、ぜひ自分の気持ちを上の者に率直に伝えてほしいと思います。私たちはそれに応える用意をしています。

白井:なかなか意見を言わないのは、言って否定されるのが怖いのかもしれないですね。100%は無理でも実現できる部分はあると思いますので、若い皆さんには「言ってみると意外と良いことあるよ」と伝えたいです。それから、子育ての話をするとネガティブな側面に注目しがちですが、子育ては楽しいものですし、自分はこの幸運に巡り会えたことをありがたく思っています。

岩田:私はこれまで北大病院で勤務し、脳神経内科の教室の皆さんをはじめ多くの方々に助けていただき本当に感謝しています。脳神経内科では私を含めかなりの前例が溜まってきましたので、様々な状況に対応できるようになりつつあると思います。これから活躍する皆さんには、自分が面白いと思うこと、やりたいことを自分の中で整理し、周囲の誰かに伝えていただけたらと思います。

矢部先生、岩田先生、白井先生

北海道大学病院脳神経内科

教授 矢部一郎先生、軽度認知障害センター 講師 岩田育子先生、助教 白井慎一先生